スティーヴ・ウィンウッドの伝記本
Keep On Running : The Steve Winwood Story
Chris Welch
スティーヴ・ウィンウッドについて書かれた書籍は驚くほど少なく、トラフィック時代に至ってはそのほとんどが霧に包まれたようにはっきりとしない。いろいろな音楽関連の本を読んでもレコードのライナーを見ても、どれも同じようなことしか書いてないのが実状とえいる。そんな中で本書はスティーヴの本格的な伝記として、かなりの希少価値的な存在である。残念ながら日本語には翻訳されていないので原文で読むしかないのだが、それでも内容に関しては非常に興味深いことが多い。この本を読むとスティーヴという人物像が今までよりかなりはっきりと見えてくる。
発行は89年で初版は168ページの構成、出版元は Omnibus Press。大ヒットを記録したアルバム "Roll With It" の時期までが守備範囲だが、幼少の頃の話やプロとしてデビューする以前の少年時代に関してもわりと詳しい。さらに天才少年として10代から活躍していたころの栄光の裏側にある少年スティーヴの苦しみや、スペンサー・デイヴィス・グループ、トラフィックといったメンバーから見たスティーヴ像、それにメンバーそれぞれの性格などもインタヴューなどから読み取ることができる。何度かにわたり生みの苦しみを味わい、そして栄光をつかんだソロ時代はもちろん、ニコルとの失敗に終わった結婚生活やユージニアとの幸福に満ちた再婚など、プライヴェートな部分にもある程度触れているのも嬉しい配慮だ。
著者は英国のロック・ジャーナリスト、クリス・ウェルチ。60年代初頭にメロディ・メーカー誌に入り、70年代はじめまで同誌でキャリアを積んだ。その後はメタルハンマー・マガジンの編集長として活躍している(ただし89年までの情報)。スティーヴとの関係も長く、スペンサー・デイヴィス・グループ時代からたびたびインタヴューの機会を得ているという。本書にもスティーヴがインタヴューで答えた話はもちろん、実兄のマフやジム・キャパルディ、そしてトラフィックのローディやスティーヴのツアーマネージャーを務めた旧友のノビー・クラークらの話も多く掲載されている。
ここで紹介したのは英国版のハードカヴァー仕様だが、米国では "Roll With It" のタイトルでペーパーバックで発売されている(出版社:Berkley Pub Group)。ちなみに筆者は神保町の洋書店タトルで、10年以上も前に "発見" した。宝物を見つけたような喜びを感じたことを今でも覚えているが、当時はなかなか読破することができず、歯がゆい思いをしたのものだ。といってもそれほど難解な英文ではないので、多少英語が好きな方なら辞書を片手に十分読むことができるだろう。まさに "Hidden Treasure" な一冊だ。



